会計士ブログ⑥ 人的資本について

こんにちは。会計士のryojitanといいます。本日は人的資本の開示について書いていこうと思います。

最近は非財務情報の開示の中で、人的資本をどのように開示していくか、が議論されています。人的資本とは人が持つ能力を資本とした経済学の考え方であり、従来から考え方はありましたがこれを投資家に開示していく、財務諸表にどう取り込んでいくかについてはあまり意識されていませんでした。こちらが今は活発な議論がされており、会計の視点で背景を記載していきたいと思います。

1980年代と少し前の時代を振り返るとビジネスの中心は製造業であり、会社が保有する機械や土地といった有形固定資産が企業価値を高める中心的な存在でした。最新式の機械を導入し、効率良く高品質の製品を製造していくかが重要であり、人の存在はその機械を使う黒子的な役割が大きな割合を占めてました。そのため、従業員の持つ能力に差があっても付加価値の中で人の能力により生み出されたアウトプットの割合は低く、給与としてコストの概念が実態と大きくは乖離していなかったと思われます。ただし現代になると、インターネットに代表される通信技術が飛躍的に進歩し、世界中の情報が安価に手に入る時代となりました。ビジネスのコアとなる情報も手に入りやすくなり、必然的にビジネスの付加価値の源泉が製造から開発・研究に移行してきます。情報化時代には、機械等の有形固定資産が付加価値を生む源泉ではなく、人の能力に代表される無形資産が付加価値の源泉になっていきます。

一つの例として、FacebookInstagramをM&Aした際の話を紹介します。FacebookSNSの市場でプラットフォームを提供する中心的な会社です。市場シェアで圧倒していた2010年頃、創業間もない売上高ゼロ、社員13人とされたInstagramを600億ほどで買収しました。実際はInstagramも利用者が爆発的に伸びていたので、売上も社員数も急成長段階ではあったと思われますが、規模に対して非常に高い買収額といえます。これは、Instagramが提供するサービスがモバイル市場でシェアを獲得していくビジネスモデルであると高く評価していたためと思われます。ビジネスモデルに価値があったため高額な買い物となりましたが、そのモデルを築いた従業員の能力が大きく寄与していることが明らかではあります。ただ、そういったビジネスモデルや人の能力はInstagramの財務諸表には資産として計上はされておらず、その当時の規模からして購入価額600億円とInstagramの純資産は乖離が大きいと推察され、おそらくではありますが、ほとんどはのれんとして会計処理したものと思われます。

このように購入時にはのれんの中に入り込むかたちで無形資産は評価されますが、買収等がない限り無形資産は資産計上されることは通常はありません。無形資産の価値を測定する会計基準は開発中であるものの、測定に主観が入りやすく、客観的な測定、評価が非常に困難とされております。財務数値として測定することが困難であることから、競争力の源泉である人的資本を非財務情報として開示することで、投資家が企業を適正に評価する意思決定ができるよう、2023年の有価証券報告書から開示が義務付けられるようになりました。